この判決でCAFCは、デザイン特許の侵害判断にあたって参照される公知デザインは、デザイン特許と同一の製品のデザインに限定されることを明確にした。
デザイン特許の侵害判断にあたって参照される公知デザインの範囲を示した判決
原告(Columbia Sportswear)は「熱反射材料」と題したデザイン特許(D657,093)を保有する。被告(Seirus Innovation Accessories)は、波形の模様にSeirusの文字を織り込んだ手袋(商品名HeatWave)を販売した。原告は被告をデザイン特許の侵害で提訴。HeatWaveには被告の名前が織り込まれているが、地裁は侵害判断においてSeirusのロゴを無視した。そして、クレームのデザインと被告製品のデザインを比較すると「通常の観察者」には波形模様が酷似しているとして、略式判決によりHeatWaveによるデザイン特許の侵害を認めた。陪審は300万ドル余の損害賠償を認定した。しかし、CAFCは、侵害判断においてロゴを無視すべきという判例はないし、陪審が判断すべき事実問題が残っているとして、判決を破棄し、地裁に事案を差戻した。
ところで、デザイン特許の侵害判断で用いられる「通常の観察者」テストでは、クレームデザインと被疑侵害品とを比較する際に、公知デザインが参照される。もしクレームデザインが公知デザインに近いのであれば、クレームデザインと被疑侵害品との違いが小さいとしても、通常の観察者にとって重要な違いになるかもしれない。この判断基準との関係で、差戻審において裁判官は公知デザインを「布製品の紋様」に限定し、これに応じて被告は3件の公知デザインを無効資料として提出した。裁判所は被告が提出した公知デザインを布製品を開示することを理由として認めるとともに、原告がこれらの公知デザインを熱反射材料を開示しないものとして区別しようとすることを認めなかった。また、原告は、公知デザインがクレームデザインと同一の製品に限られること、公知例が適切であるかどうかを判断する必要があること、を含む陪審員説示を行うことを求めたが、地裁はこれを認めず、このような公知デザインの要件に関する陪審員説示を行わなかった。そして、陪審は「デザイン特許非侵害」の評決を下した。原告は、CAFCに控訴。
CAFCは地裁判決(非侵害)を破棄し、その理由を次のように述べた。本件デザイン特許のクレーム範囲と公知デザインの範囲についての陪審に対する地裁の説示は誤っている。本件デザインと公知デザインを比較する場合、公知デザインはデザイン特許のクレームで特定された製造物と同じ製品、つまり熱反射材料でなければならない。地裁が公知デザインの範囲に関する陪審員説示を行わなかったことは、争点を十分にカバーしない不十分な説示を行ったことになり、これは誤りである。