CAFC判決

CAFC判決

Bilski 対 Kappos事件

No. 2008-964,2010,9,28-Jun-10

ビジネス方法に関連する発明の成立性,この最高裁判決は、純粋なビジネス方法、抽象的なアルゴリズムは特許の対象でないことを確認しました。確認の方法として、CAFCが採用した「機械・変換テスト」は発明の特許性に関する有効な「手掛かり」ではあるが、第101条に基づく特許性に関する唯一のテストではないと述べて、このテストを唯一の基準としたCAFCの判断を否定しました。何が有効なビジネスモデル発明(特許)かどうかについて、最高裁は明言せずこの問題を先送りしましたが、日本の審査基準に従って、ビジネス方法を実行するハードウェアリソース、ソフトウェアによるハードウェアの特有な活用方法を記載している特許は、米国でも有効と思われます。

ビジネス方法に関連する発明の成立性

この事件で最高裁は、米国特許抵触審判部(以下、審判部)がビルスキ(Bernald Bilski)氏の米国特許第08/833,892号の11個のクレーム全てを拒絶したことを支持したCAFC判決に関し、先に事件移送命令書(サーシオレイライ)の申立てを認めていたビルスキの上告に対して判決を下した。

ビルスキの特許出願は、エネルギー市場における商品の購入者と販売者が如何にして価格変動リスクから身を守ること(ヘッジング)ができるかに関する発明ある。具体的には、クレーム1はリスクヘッジの方法に関するステップを記述しており、またクレーム4は、クレーム1のステップを数式で言い換えたものであった。

特許審査官は、ヘッジングは抽象的概念であり、クレームは単に数学的問題を解決したにすぎないとして、これらのクレームを拒絶した。この拒絶は審判部及びCAFCの全員法廷の判決で支持された。

最高裁は、特許法第101条に基づく特許法が保護の対象とする発明は、方法・機械・製造物・組成物であり、これらの広義なカテゴリから、自然現象・物理的現象・抽象的概念は除外される、と述べた。

ビルスキの発明は、第100条(b)に規定された「プロセス、技法(art)または手段(method)であり、既知の方法、機械、製品、組成物または材料の新規用途を含むもの」としての「プロセス」をクレームしていた。

CAFC大法廷のほぼ全員の判事(注1)は、ヘッジングに関するクレームは特許の保護対象ではないという点で同意したが、判決で統一した解釈について合意には至らなかった。

多数意見は、特許が保護対象とするプロセスを、抽象的概念を単に用いたプロセスから差別化するテストを明らかにしようと試み、クレームされた発明は機械に関係しているか、もしくは物理量へ変換していなければならないとした「機械・変換テスト」を持ち出した。

レーダー判事(注2)の反対意見が特許の保護対象ではない抽象的概念を具現化するクレームを許可しない一方で、メイヤー判事の反対意見は、ビジネスを行う方法を構成する全ての発明に特許の保護を認めないというものであった。ニューマン判事だけが、この発明は特許の保護対象であるが、他の理由から特許性の判断は覆る可能性があると述べた。

上告審において最高裁は、ケネディ判事を含む多数意見の判決として、「機械・変換テスト」は発明の特許性に関する有効な「手掛かり」ではあるが、第101条に基づく特許性に関する唯一のテストではないと述べて、このテストを唯一の基準としたCAFCの判断を否定した。

また、最高裁は、多数派の4名の判事を含む補足意見として、「機械・変換」テストは、ソフトウエアや先端的な診断医療技術、及び、線形計画法やデータ圧縮及びデータ信号の操作に関する発明を含む他の分野の発明の特許性に関する不確定さを生ずる可能性があると述べた。

最高裁は、第101条には「プロセス」という文言の意味として「ビジネス方法」をはっきりと除外する根拠はないと判示した。「方法」という文言の通常の意味は、少なくともいくつかのビジネス方法を含んでいる。更に、米国特許法第273条(a)(3)は、ビジネス方法は一種の方法であると明記していることから、連邦法は同条文に基づく少なくとも何等かのビジネス方法特許は明らかに意図している、と述べた。

第273条は、先行使用の抗弁をビジネス方法特許に用いることを認める1999年発明者保護法の一部である。したがって、最高裁の多数意見は、特許法の他の要件の制約の下で、法律には一部のビジネス方法特許を認める余地がある、と判断した。

ふたつの代替テストについて述べた後、最高裁は事件を Gottsch-alk 対 Benson 事件、Parker 対 Flook 事件、及び Diamond 対 Diehr事件(注3)の判例に基づき、申立人のクレームは抽象的概念を特許にしようとするものであるから、クレームは特許の保護対象の方法ではないと判断した。

特に、最高裁はレーダー判事の反対意見の中の分析に基づき、「ヘッジングは基本的な経済プラクティスであり、(中略)、金融の入門クラスで教えられる事項である」と認定した。

ビルスキにリスクヘッジの特許を認めることは、全ての分野におけるこのアプローチの使用を先取りすることとなり、抽象的概念について独占権を与えることになる。更に、残りのクレームは、ヘッジングがどのように商品およびエネルギー市場で行われるか、あるいは、「抽象的な概念を1つの分野でどのように使用するか」の例を示したに過ぎず、これはFlook事件でも特許付与を認めていない。

スティーブンス判事の補足意見は、機械・変換テストが特許法第101条に基づく特許の保護対象となるプロセスの唯一のテストではないという多数意見を支持した。しかしながら、スティーブンス判事は、ビジネス方法が歴史的に特許の保護対象でなかったことを考慮し、ビジネス方法を第101条に基づく「プロセス」と同視し、ビジネス方法が特許の保護対象の主題であると判断した多数意見には反対した。

さらに、裁判官等は特許性のない抽象的概念が何かについて裁判所が今まで定義していなかった点で一致したが、これに対してスティーブンス判事は、第273条は、ビジネス方法の現在のユーザーを、後から特許付与されたプロセスによる侵害者から保護するにすぎず、第101条に基づきビジネス方法を特許の保護対象とすることの強化を意図しているわけではないと提言し、全てのビジネス方法を網羅的に特許の保護対象とすることを否定して反論した。

ブレイヤー判事はスケーリア判事と共に、第101条の解釈における多数意見とスティーブンス判事の補足意見とで共通する以下の4つの原則をまとめた。(1)第101条の適用範囲は広いが、無制限ではない。(2)機械・変換テストは特許性に関する手掛かりを提供するものである。(3)機械・変換テストは唯一のテストではない。そして、(4)機械・変換テストをパスし、その発明が「有用、具体的及び現実的な結果」をもたらすものであっても、直ちに特許の保護対象とはならない。

特許実務者にとってこの判決は、最高裁が基本的に第101条の基準を1982年のCAFCの設立以前の、Benson, Flook, Diehr事件で述べられた基準にリセットしたことを示している。最高裁は何が抽象的概念であるかについて実質的な指針を示さなかったので、CAFCはこの穴を将来の判決において埋めていくことになるであろう。

審査官および審判官が発明に対して特許を付与または拒絶する上で、特許の保護対象がビジネス方法であるかどうかの問題の重要度は低くなり、裁判所は特許性を支配する特許法の他の条文に重きを置くようになるであろう。

最も重要なことは、スティーブンス判事は、最高裁判決を別の結果に導くに足る賛成票を得られなかったので、ビジネス方法は依然として特許可能であろうという点である。

最後に、最高裁の多数意見は第101条の法理学の大部分をリセットしたけれども、最高裁は、CAFCがState Street Bank判決で示したビジネス方法特許を認めながらも特許の保護対象は制限されるとした、「有用、具体的及び現実的な結果」テストを取り消さなかったことも重要である。

Key Point?この判決は、純粋なビジネス方法、抽象的なアルゴリズムは特許の対象となる発明でないことを確認した。しかし、確認の方法として、CAFCが採用した「機械・変換テスト」は発明の特許性に関する有効な「手掛かり」ではあるが、第101条に基づく特許性に関する唯一のテストではないと述べて、このテストを唯一の基準としたCAFCの判断を否定した。?しかし、何が有効なビジネスモデル発明(特許)かどうか、裁判所は明言せず、この問題を先送りしたが、日本の審査基準に従って、ビジネス方法を実行するハードウエアリソース、ソフトウエアによるハードウエアの特有な活用方法を記載している特許は米国でも有効と思われる。

Key Point?In re Bilski, 545 F. 3d 943 (Fed. Cir. 2008)(全員法廷)を参照。?Randall R. Rader 判事の後任として、2010年6月1日付で、Paul R. Michel 判事がCAFC首席裁判官に就任した。?Gottschalk 対 Benson 事件, 409 U. S. 63 (1972); Parker 対 Flook 事件, 437 U. S. 584 (1978) Diamond 対 Diehr 事件, 450 U. S. 175 (1981).