この判決では、出席が厳しく管理されていた展示会への意匠(デザイン)の出展が、米国特許法102条(b)の公然使用にあたるかどうかが争点となった。また、公然使用を判断するための、状況総合テストを明らかにしている。
意匠に関する新規性(102条b)の具体的判断方法
2004年10月20日、CAFCはBernhardt, LLC (以下、”Bernhardt”)所有の多くの意匠登録(デザイン特許)が無効であり、侵害されていないという地方裁判所の判決を破棄する判決を下した。
Bernhardtがライバル社であるCollezione Europa USA, Inc. (以下、”Collezione”)に侵害されていると訴えた登録意匠は6つの家具デザインに関するものであった。Collezioneは訴えに対して侵害を否認し、6つの意匠登録の内4つは無効であるとの反訴を提起した。
審理の後、地方裁判所はCollezioneは非侵害であり、Bernhardtの4つの意匠登録は、その出願日より1年以上前に既に公において使用されていたため、特許法102条(b)により無効であると判断した。
控訴審において、CAFCは、まず先の公共使用による登録無効の問題を取り上げた。地方裁判所はBernhardtの6つの意匠登録の内の4つは、その最先の出願日より1年以上前に私的な展示会においてその登録意匠の特徴を取り入れた家具の資料を提供していたため、無効であると判断していた。展示会においてBernhardtは新しいデザインを重要な顧客及び報道陣に見せていたからである。
その展示会へのアクセスは厳しく管理されており、招待客のみ出席可能であった。出席者には常にBernhardt社員が付き添っており、出席者は2度検査をされた身分証明書を提示しなければならなかった。また、写真撮影は厳しく禁止されていた。
CAFCは、出席者が展示されている家具のデザインを公にしないという法的な義務を負っていなかったという理由だけで、地方裁判所が展示会を特許法102条(b)における公的な使用と判断したのは誤りであると判断した。
Bernhardtが出席者に機密契約書にサインをもらっていなかったことをCAFCは認めたが、そのような契約が存在していたとしても法における先の公然使用に関する問題の結論を導くわけではないと判断した。
むしろ、地方裁判所は状況全体を把握した上で、展示会におけるBernhardtの方針が先行使用禁止という根底にある方針と適合しているかどうかを判断することが必要だった。
地方裁判所は守秘契約の有無にのみ焦点をおいていたため、意匠登録の有効性を判定するために必要となる2つの補足的なテストを行っていなかった。それゆえ、CAFCは無効を認めた判決を取り消し、上記の原則に従い本問題を再審理するよう地方裁判所に差し戻したのである。
CAFCは、地方裁判所が公然の先行使用に関する問題を考慮するにあたって、登録されたデザインと展示会で発表されたデザインとの比較が不十分であったことは、誤りであるとし、意匠登録の有効性を判定するために、地方裁判所はまず意匠登録のクレームを解釈し、その後正しく解釈されたクレームと、その無効を証明するための資料とを比較しなくてはならないと繰り返し述べた。
CAFCは地方裁判所が特許クレームと提出された無効資料とを比較するための二段階に渡る審査を正しく行わなかったと判断した。その比較審査では2つの補足的なテストが適用される。通常の看者によるテスト(ordinary observer test)と新規部分に関するテスト(the points of novelty test)である。
通常の看者によるテストとは、登録意匠が無効資料と実質上類似しているかどうかを検討するものであり、新規部分に関するテストとは、登録意匠を先行意匠と区別しているとする新規な部分を無効資料が有しているかどうかを問うためのテストである。
CAFCは、地方裁判所が登録意匠と無効資料との実質的な類似性に関する証拠、及び無効資料が特許された新規な部分を有しているどうかに関する証拠について証拠調べを実行しなかったことは誤りであると結論付けた。
最後に、Collezioneの家具がBernhardt登録意匠に開示されている新規な部分を有していることを証明するための専門家証言を地方裁判所がBernhardtに求めたことも、CAFCは誤りであると判示した。
Bernhardtはその登録意匠の新規性に関する主張も含んだ事実認定案を提出したが、地方裁判所はこれを無視し、Bernhardtがクレームの侵害を立証するためには専門家証言が必要だったと主張した。
CAFCはこれに同意しなかった。「特許の所有者がこの新規性のテストに関する責務を果たすために、どのような証拠を最低限示さなければならないかに関して、明白に語られた」ことはないと説明しつつ、CAFCは、特許権者は少なくとも問題となっている意匠登録、その審査経過及び新規性に関連する主張を提出しなくてはならないと述べた。
CAFCの判決文によれば、新規な部分及びどのように侵害品がその新規な部分を有しているかを示す供述書の提出なども交えて、自由に新規性に関する主張を特許権者は行うことができるとしている。
地方裁判所は専門家証言がなかったことに焦点をあてていたため、CAFCは、非侵害の判決を取り消し、Bernhardtの新規性主張も考慮に入れ、侵害問題に関して再審理するよう地方裁判所に差し戻した。
本件は、特許法102条(b)における公然の先行使用を主張する際の、「公然」の性質を判断するための状況総合テスト(totality-of-the-circumstances test)について明らかにした点で重要である。このテストは、守秘契約の有無に重点をおいていない点でも重要である。
CAFCは意匠登録の有効性判断のみにこのテストを適用すると限定しているわけではない。むしろ、公然の先行使用が問題となる全てのケースにおいて一般的に適用されうるだろう。