CAFC判決

CAFC判決

Bennett Regulator Guards, Inc. 対 Canadian Meter Co.事件

No. 2005-1425,2006,11,19-Jun-06

本件は、公知公用を裏付ける証拠であっても、状況によって、新規性の欠如を理由とする特許無効の略式判決の申し立てを進めるには不十分となる場合があることを示した事件です。本件はさらに、公知公用は、事実の立証が難しいことから、新規性の欠如を根拠として特許無効を主張しても、主張が認められる可能性が低いことを明らかにした事件です。

新規性の欠如を立証するための公知/公用の証拠について

Bennett事件においてCAFCは、侵害被疑品の装置自体が原告の特許発明の先行技術か否かという点について重要事実の真正な争点があると認定した。その結果、CAFCは地方裁判所の略式判決を破棄し、事件を地方裁判所へ差し戻した。

米国特許第5,810,029号(以下、029特許)は、天然ガス流量調節器の圧力弁用スプレーカバーに関する発明で、ガスの加減弁が凍結により機能しなくなるのを防ぐものであった。

029特許の特許権者であるBennett Regulator Guards, Inc. (以下、Bennett)は、関連会社同士であるCanadian Meter およびAmerican Meter (以下、合わせてMeter)に対し、Meterの製品であるSplash Guardというガス流量調節器用のプロテクターによる特許侵害を理由に提訴した。

具体的に、Bennettは、MeterのSplash Guardが、029特許の請求項1、2、5および6を侵害していると主張した。

Meterは、新規性欠如を理由に029特許が無効であり、Splash Guardに関する自社の商業活動により、Bennettの特許発明は新規性を欠如していると主張した。

MeterはSplash Guardについて特許を取得していないが、Canadian Meterが1990年代初頭にSplash Guardを開発し、Splash Guard製品に関する数多くの商業活動を行ってきた。

Meterは、新規性欠如を理由に特許無効の略式判決を求めて反訴した。

地方裁判所は、Meterによる過去の製品公開および販売の申し出により、特許の新規性はない、というMeterの理論による、新規性の欠如を理由とする特許無効の略式判決の申立てを棄却し、Bennettがそれら個々の理論の根本にある重要事実に関する真正な争点を提起したと結論付けた。

しかしながら、裁判所は、特許発明以前の公用および公知により新規性が無かったというMeterの理論に基づいて、新規性の欠如を理由とする特許無効の略式判決の申立てを認めた。裁判所の判決は、以下の2つの事実認定に基づいていた。それは、(1)Meterがネブラスカ州ネブラスカ市のCanadian Gas Association (以下、CGA)と1991年に行なったSplash Guardの調整テストは、公用を裏付けるものであったこと、および(2)社内メモに加え、Bay State Gas Company およびVermont Gas Companyからのレターは、Splash Guardに関するMeterの知識が秘密でもなければトレードシークレットでもなかったことを示していたことである。

控訴審においてCAFCは、地方裁判所の略式判決を破棄して事件を差し戻した。第一に、CAFCは、ネブラスカ市におけるテストが本当に公用であったか否か、および、テストされた装置が請求項の個々の構成要件を備えていたか否かに関し、重要な事実に関する真正な争点が存在すると結論付けた。

この結論の根拠として、CAFCは、CGAがテストを「独占状態で」視察していたことを認識していたと述べたMeterの副社長の証言について着目し、この証言がネブラスカ市のテストの公共性に関する重要な事実の真正な争点を生ずるものと見なした。

CAFCはさらに、Splash Guardの一部だけがテストされたもので、他の侵害を主張された部分についてはテストされなかったというMeterの社内メモについて着目した。

CAFCは、このメモは、侵害を主張された装置が公然でテストされたか否かという、重要事実に関する真正な争点を生じていると認定した。

第二にCAFCは、MeterのSplash GuardがBennettの特許発明以前に公知であったか否かについて、重要事実に関する真正な争点があると認定した。

Meterは2つの証拠に基づき、Splash Guardに関する知識は「公に入手可能であった」と主張した。その2つの証拠とは、(1)Splash Guardに関する「将来的な要件と顧客の反応」を要求したCanadian MeterからAmerican Meterへのメモ、および、(2)MeterからVermont Gas Company およびBay State Gas Companyへの2通のレターである。

このレターにおいて、Meterは2社に対しSplash Guardについて知らせており、Splash Guardについて「必要な情報があれば何でも」Meterに連絡するようにと述べていた。

CAFCは、これらの文書だけでは、MeterがSplash Guardに関する技術情報を非公開にしたままで、Splash Guardを公表しようとしていたことを立証しているにすぎないと認定した。

その結果、CAFCは、社内メモも2つのレターも、Splash Guardに関するMeterの知識がBennettの特許発明以前に公に入手可能であったことを、明らかに説得力のある証拠によって立証するものではない、と認定した。

メイヤー(Mayer)判事は、Splash Guardに関するMeterの知識はBennettの特許発明以前に公に入手可能であったとして、反対意見を述べ、Meterがあるガス会社に送ったレターにはMeterのSplash Guard装置の技術図面が含まれており、その図面は装置の内部構成を示していた、と指摘した。

メイヤー判事によると、この文書は、MeterがBennettの特許発明以前にSplash Guard 装置に関する技術的な詳細を積極的に公表していた事実を立証するものである。

さらにメイヤー判事は、Canadian Meter からAmerican Meter宛に送られた、装置の40個のサンプルを同封した別のレターについても言及した。

メイヤー判事は、このレターはMeterのSplash Guardが公に入手可能であったことを実証するものであると認定した。

この事件は、公然の使用および公然と知られたことを裏付ける証拠であっても、状況によって、新規性の欠如を理由とする特許無効の略式判決の申立てを進めるには不十分となる場合があることを示した。

本件はさらに、公用および公知の要件が事実に徹底しているという性質を考えると、新規性の欠如を理由とする特許無効の略式判決を受けることの難しさを明らかにした事件である。