この事件では、明細書に明確に定義されていないクレーム中の文言の使用による落とし穴が強調されました。定義づけのないクレーム中の文言は、明細書とその審査経過が分析され、時として、権利者側に不利な解釈がなされることを示した事件です。
クレーム中の文言の定義の重要性
テキサスシステム大学の学校理事会(以下、理事会)は、BENQアメリカンコーポレーション及び京セラワイアレス、NEC、ソニーエリクソン、パナソニック、東芝、シャープを含む様々な電子機器・携帯電話会社(以下、まとめてBENQ)を相手取り、米国特許第4,674,112号(以下、112特許)で侵害訴訟を提起した。
この事件は、プッシュ式電話を用いた口頭によらない言葉の伝達に関係する。
112特許の審査の過程で主張されたように、文字のうちのひとつに対応している電話機のキーパッド上のナンバーキーをユーザーが押し、それらのナンバーがいくつか入力された後、ナンバーと言葉のデータベースを比較し、オートメーション化された会社名簿の中の従業員の例えば名字と一致するものを検索するシステムが先行技術には含まれている。
しかし審査の過程で主張されたように、112特許は「音節要素(音節のような文字のグループ)」のデータベースに対して押されたキーをマッピングすることによりそのシステムを改良した。
音節要素は、保存スペースが少なく(音節は単語より数が少ない)、柔軟性がある(音節の組み合わせは選択肢が多い)。
裁判所は、112特許の請求項10の争点となっている方法は、一文字ずつ電話のキーパッドに単語を入力し、その上で「音節要素の代表であるそれぞれ予めプログラムされたコードのひとつ以上」と単語を一致させる。
理事会は、3つの別々の事件でいくつかの会社を訴え、全ての事件をひとつの事件に併合した。
地裁は、マークマンヒアリングを開き、「音節要素」を「ひとつの単語をつくるために他の一音節の文字グループと組み合わせるとこができる単語を含む一音節の文字グループ」と解釈した。
地裁はまた、「ひとつ以上の予めプログラムされたコード」は、解釈の必要なしとして説明しなかった。
地裁がこの解釈を発表した後、モトローラが略式判決を要求し、地裁はそれを認めた。略式判決の内容に基づき、理事会は他の被告が侵害していないことを認め、控訴した。
控訴審において、CAFCはクレームの解釈と、結果としての非侵害の決定の双方を再検討した。まず「音節要素」という文言の検討にあたり、CAFCは明細書と審査経過を見直した。理事会は、「音節要素」はひとつ以上の音節を含むことを認める解釈を要求した。
しかし、明細書及び審査経過の検討後、CAFCは「音節要素」という文言は単語とは区別され、一音節のみと限定するに至った。
実際には、CAFCは審査の過程において出願人が独立クレーム10を審査官の拒絶を解消するために補正し、「英数字の文字列」というフレーズを「音節要素」と置き換えていたことには説得力があると認定した。
CAFCはまた、地裁が解釈しなかったにもかかわらず、「音節要素を示す予めプログラムされた各コード」という文言を解釈した。
理事会は、クレームは音節要素のひとつの一致を要求するのみであると主張したのに対して、BENQはボキャブラリーはもっぱら音節要素によって構成されなければならないと主張した。
CAFCは「音節要素を示す予めプログラムされた各コード」という文言は、特にデータベース全体は音節要素のみを含むということを限定するという点でBENQの主張を認めた。
「各」という単語の使用について、理事会は断続的な侵害であるとの主張をつづけた。地裁において理事会は、単語のデータベースは単語が一音節である場合に音節要素のデータベースとオーバーラップするために、その方法は特許権を侵害する場合があると主張したのである。
しかし、地裁は、仮にこの侵害の見解が正しければ、先行技術と部分的に抵触し、従って新規性のない発明となると述べて、この主張を拒絶した。
従って、地裁は、特許が音節要素のみのデータベースを含んでいないことから、モトローラは112特許を侵害していないと認定した。
「音節要素を示す予めプログラムされた各コード」という文言を解釈した上で、CAFCはこの見解を支持した。
この事件は、特許のクレームにおける定義づけのない文言の使用によって起こりうる落とし穴を強調している。
「音節要素」という文言が明確に定義づけられていないことは明らかであり、故に裁判所は発明の開示と審査経過を綿密に分析する必要があった。
幾つかの点で、もし仮にこの本質的な証拠がそのクレーム解釈をサポートしていれば、理事会の意見は説得力のあるものであったかもしれないとCAFCは示唆した。
審査経過はその見解をサポートしていなかったので、曖昧さは理事会にとって不利な要因となった。