CAFC判決

CAFC判決

Bancorp Services, L.L.C. 対 Sun Life Assurance Co. 事件

No. 2011-1467,2012,10,26-Jul-12

この事件においてCAFCは、コンピュータ関連発明における特許適格性の有無に関する分析を行い、生命保険証券の管理に関するクレームは抽象的概念であり、特許適格性が無いと判断しました。その判断において、過去の判例で示された特許適格性を裏付ける事実の指針を採用しました。その指針とは、(1)市場における技術改良となるコンピュータの使用、(2)人間の思考の中だけでは完全に実行することができない発明であること、および(3)クレームされた発明の実施においてコンピュータが重要な役割を担っていることです。

この事件においてCAFCは、バンコープ社(Bancorp Services, L.L.C.)が所有する複数の特許のクレームを、米国特許法第101条に基づく特許適格性の欠如を理由に無効とする判断を下したミズーリ州西地区地方裁判所の略式判決を支持した。

特許のクレームは、証券が持つ資産の市場価値と解約返戻金(証券が満期前に現金化された場合に証券の所有者へ支払う金額)との間に生じる損失リスクを最小限にする生命保険証券の管理方法に関するものである。この方法は、「証券によって保護された安定した価値」に関する様々な計算から構成されていた。また、バンコープの特許は、(1)「コンピュータにより実行される」方法クレーム、(2)この方法の工程を実行する「コンピュータを制御するためのコンピュータ可読媒体」クレーム、および、(3)この方法を包含するシステムクレームの3つの発明を含んでいた。

特許法第101条は、特許可能な主題として、プロセス・機械・生産品・組成物の4つのカテゴリーを定義している。判例により特許法第101条の特許対象から除外されるものとして、自然法則、自然現象、および抽象的概念がある。Bilski 対 Kapposの最高裁判決以前において、CAFCは、第101条に基づくプロセスの特許性の判断をするために「機械または変換テスト」を採用していた。機械または変換テストに基づくと、プロセスは、(1)特定の機械に関連する、もしくは(2)異なる状態または物に物理的に変換する場合のみ特許適格性がある。Bilski判決において、最高裁は、機械または変換テストは特許適格性を排除するテストであるとして拒絶し、テストは第101条に基づくプロセスの特許性の判断をする上での有用なツールに過ぎないと述べた。

略式判決において、地方裁判所は、クレームは第101条に基づく特許適格性のない首題であるとして無効であると認定した。地方裁判所は機械または変換テストを採用し、方法は手動で実現でき、クレームはデータの変換を必要としないことから、クレームは特許適格性を満たさない抽象的概念であると認定した。

地方裁判所は主題適格性について判決を下す前にクレーム解釈を行わなかった。CAFCは、地方裁判所の手法は裁判所の裁量権の範囲内であったと述べたが、第101条の分析を行う前に、あるクレーム文言の解釈をした。控訴審において、CAFCは、方法クレームはコンピュータを必要としないが、システムクレームおよびコンピュータ可読媒体クレームはコンピュータを必要とする、と判断した。

システムおよび媒体クレームにコンピュータが必要であるとの結論を出したが、CAFCは、全てのクレームは特許適格性のない抽象的概念であると認定した。

CAFCは、コンピュータ以外に他の特許適格性のないプロセスの特許性を満たすためには、クレームにはコンピュータが不可欠であると説明し、人間にはできない方法でコンピュータがプロセスの実行を容易にしなければならないと理由づけたのである。

バンコープ社のクレームは、生命保険証券によって保護された安定した価値を維持するという抽象的概念を用いること、および、ある望ましい入力データを提供するよく知られた計算を行うことをクレームしているに過ぎないと、CAFCは認定した。そして、コンピュータ上で単に効果的な計算を実行することは、クレームに特許適格性を与えることにはならないと結論付けた。

CAFCは本件をResearch Corp. Technologies, Inc.対 Microsoft Corp.事件 627 F.3d 859 (Fed.Cir. 2010)、および、CLS Bank International 対 Alice Corp.事件、No. 2011-1301, 2012 WL 2708400 (Fed. Cir. July 9, 2012)における最近の判決とは区別した。Research Corp.事件において、CAFCは、デジタル画像のハーフトーン画像をコンピュータに描画させる工程は、第101条に基づく特許適格性のある主題であると判断した。

CAFCは、その発明はその分野において数多くの出願が提出されており、市場で入手可能な技術改良がなされている、と説明したものの、本件ではそのような技術改良はされていないとCAFCは認定した。

さらにResearch Corp.事件におけるクレームされた方法は、完全に人間の思考の中だけで実現することはできないが、一方で本件では、クレームは精神的に実現されることが可能であり、コンピュータは単により効率的に計算をするに過ぎない、とCAFCは認定した。

CLS Bank International事件においてCAFCは、コンピュータを用いて「決済リスク」を取り除き、第三者が当事者間の債務を履行する方法、そのためのシステムとコンピュータ可読媒体クレームの特許適格性を認める判決を支持した。

CLS事件では、コンピュータの限定が発明の実施において重要な役割を担っていた。一方で、CAFCは、本事件の争点においては、コンピュータの限定がクレーム中で全体的に重要な役割を担っていないと結論付けた。

バンコープ社事件は、コンピュータに関連する方法クレームの特許適格性の有無について言及したCAFCの数多くの事件の中で最新のものである。

バンコープ社事件の判決は、コンピュータによって限定的に改良されたデータ処理クレームは特許適格性を満たさないことを明らかにした。この判決はさらに、特許適格性を裏付ける事実を示した先の判例による指針を再度支持した。

その特許適格性を裏付ける事実とは、(1)市場における技術改良となるコンピュータの使用、(2)人間の思考の中だけでは完全に実行することができない発明であること、(3)クレームされた発明の実施においてコンピュータが重要な役割を担っていること、である。

Key Point?この事件においてCAFCは、コンピュータ関連発明における特許適格性の有無に関する分析を行い、生命保険証券の管理に関するクレームは抽象的概念であり、特許適格性が無いと判断した。その判断において、過去の判例で示された特許適格性を裏付ける事実の指針を採用した。その指針とは、(1)市場における技術改良となるコンピュータの使用、(2)人間の思考の中だけでは完全に実行することができない発明であること、および(3)クレームされた発明の実施においてコンピュータが重要な役割を担っていることである。