出願関係者以外にもIDSの義務を負う者,CAFCは発明者・弁護士・代理人のいずれでもない者の、特許の出願過程へ「実質的に関与」し、特許庁に対する誠実義務を負うか否かを判断しました。CAFCは、「実質的に関与」するか否かの決定には知識要件は含まれず、会社における地位、その発明が絡むビジネスへの関与の度合いなどを考慮に入れて判断し、実質的な関与者を広く解釈しました。
出願前の発明の実施に関する情報を故意に隠蔽した場合の特許の有効性を取り扱った事件
アヴィド(Avid)事件は、符号化された生体適合性を有する半導体素子を読み取るためのマルチモード無線周波数識別システムに関する米国特許第5,235,326号(326特許)に関連する。
アヴィド(Avid Identification Systems Inc.)は、離ればなれになった動物を識別し、その所有者のもとへ再び集める機会を増やすために、動物の体内に埋め込む半導体素子を設計及び販売していた。
アヴィドは、326特許の侵害と、不正競争及び虚偽広告の申立を主張し、アヴィドの競合他社であるDatamars SAとその子会社であるCrystal Import Corporation(以下、まとめてデータマーズ)に対し訴訟を提起した。
陪審員は326特許の故意侵害、及び特許の有効性を認定し、不正競争及び虚偽広告に関するアヴィドの主張を認めた。
審理に引き続いてデータマーズは、不正行為のために特許権は権利行使不可能とする申し立てを行った。地方裁判所は、アヴィドの創立者であり社長であるストダード氏(Dr. Hannis Stoddard)による先の見本市でのアヴィドの技術の発表は、米国特許法第102条(b)における重要な先行技術であると認定し、この申し立てを認めた。
さらに地方裁判所は、ストダード氏は特許庁に対し誠実義務を負っていたが、欺瞞的意図により、この発表に関する情報の特許庁への提出が差し控えられたと認定した。
アヴィドは地方裁判所の判決に対して控訴した。アヴィドはストダード氏が特許庁を欺く意図を持って情報を差し控えたことに異議を唱えなかったが、アヴィドは見本市での発表が重要であること、及び、ストダード氏がこの情報を開示する誠実義務を負っていたことに異議を申し立てた。
まず、アヴィドは、陪審員は見本市の情報が示された後で326特許は無効でないと認定したので、陪審員は見本市での発表が第102条(b)の先行技術にはあたらないとしたに違いないと主張した。
CAFCは、アヴィドの主張は「重要であること」と「無効にすること」の概念を混同していると認定し、「たとえ特許権を実際に無効にするような情報でないとしても、合理的な審査官であれば特許性の判断に重要な特定の情報を見つけるであろう」と認めた。
従って、CAFCは先行する製品が、特許を無効にはしなくとも、最も近い先行技術を反映しており、故に特許性に関して非常に重要であるとする地方裁判所の認定を支持した。
次に、CAFCはストダード氏が特許庁に対して誠実義務を負っていたかどうかについて判断した。まず、CAFCは米国特許法施行規則第1.56条(c)において「(1)列挙された発明者、(2)出願を準備し、追行する弁護士又は代理人、及び(3)出願の準備、追行に実質的に関与しており、且つ、発明者又は譲受人と関係があるあらゆる他人」に対し誠実義務は存在すると認めた。CAFCは、それから、その義務に違反するという人々の行為は特許出願人に課せられるべきであり、その出願人の特許権は行使不可能とされると認めた。
ストダード氏は発明者でも代理人でもなかったため、ストダード氏の誠実義務の判断は、第1.56条(c)(3)が適用されるか否かに基づくものであった。ストダード氏はアヴィドの創業社長であり、アヴィドは非公開会社で、ストダード氏が発明者を雇用していたために、CAFCは、第1.56条(c)(3)の第一の要件に従い、ストダード氏は326特許の発明者、及び譲受人と「関係がある」と認定した。
それからCAFCは、第1.56条(c)(3)の第二の要件について判断した。規則1.56における「実質的に関与する」との意味に初めて取り組み、CAFCはそれを「関与とは、出願の内容もしくはそのことに関する決定に関連し、関与とは管理もしくは事務的なものでは全くない」と意味するように解釈した。
この分析の中で、地方裁判所は、ストダード氏がアヴィドの調査及び開発に関与しており、326特許と同じ主題に関するアヴィドのヨーロッパ特許出願に関連して2つの連絡を受け取っていたことを発見した。
CAFCは、これらの事実はストダード氏が326特許出願に実質的に関与していたと合理的に推測するために十分であるとした。さらに、事件記録全体の再検討のなかで、CAFCは、ストダード氏が実質的に関与していたとする推測をさらに補足するように、先行技術の発表の際のストダード氏の関与、特許に関連する事柄について326特許出願の過程で少なくとも一人の発明者と彼が連絡を取っていたこと、及び出願以前にスモールエンティティステイタス供述書にある彼の署名に言及した。
従って、CAFCは地方裁判所の誠実さの分析が誤りではないのは明らかで、第1.56条(c)(3)は適用され、ストダード氏は特許庁に対して誠実義務を負っていたと認定した。
アヴィド事件における反対意見では、「実質的に関与する」とは知識要件がある、つまり「(個人が)知っていたもしくは発見した情報の重要性を見極めることが可能でなくてはならない」ことが主張された。
しかしながら、多数派意見では知識要件は規則56の別の条項において規定されており、別の目的を有すると言及し、この定義を認めなかった。さらに、多数派意見では、個人の実質的な関与の分析は、誠実義務が存在するか否かを決定する初めの出発点となる問題であり、知識の調査は、誠実義務の存在が認定された後にのみ適用されることが主張された。
CAFCは、重要な情報の提出を特許庁を欺く意図を持って差し控えたことにより、ストダード氏は誠実義務に違反したという理由で、アヴィドの326特許は不正行為により行使不可能であるとした地方裁判所の判決を支持することで判決を下した。
アヴィド事件において、CAFCは規則1.56のもと、個人が「実質的に関与」するか否かに関する指針を提供した。従って、この判決はCAFCが、会社における個人の地位、特許されたアイディアを開発若しくは販売する際の個人の役割、出願段階での発明者及び弁護士との関連する実質的なコミュニケーションといった広い一連の要因を考慮にいれることを示した。さらに、アヴィド事件では、規則1・56のもとの誠実義務の分析は知識要件を含まないことを認めた。