単離DNAは特許の対象外、人工的に合成されたcDNAを特許取得可能とした論じた判決,この判決において、米国最高裁判所は、単離DNA及び相補的DNA(cDNA)が、米国特許法第101条(35USC§101)の規定に従う特許可能な発明主題であるか否かの争点に対し、単離DNAを特許の対象外とし、一方人工的に合成されたcDNAについては特許取得可能とする全員一致の判決を下した。
単離DNAは特許の対象外、人工的に合成されたcDNAを特許取得可能とした論じた判決
分子病理学協会(Association for Molecular Pathology)対ミリアッド・ジェネティクス(Myriad Genetics, Inc.:以下「ミリアッド」)の件において、米国最高裁判所は、CAFCの判決の一部を破棄、一部を支持し、単離DNAを特許の対象外としたが、合成cDNAは特許の対象可能と認定した。
この事件は、乳癌及び卵巣癌のリスクに関係する遺伝子、BRCA1及びBRCA2に関する。
ミリアッドは、ヒトゲノム内のBRCA1及びBRCA2遺伝子の具体的な位置と配列を発見した。この情報を用いてミリアッドは、患者のBRCA1及びBRCA2遺伝子における変異を検出する医療検査方法を開発し、患者の癌の罹患率の評価を可能にした。これにより、ミリアッドはこの遺伝子の発見に関する特許を数件取得した。
これに対し、医師、患者、及び権利擁護団体は、米国特許法第101条(35USC§101)の規定によりその特許の内容が特許対象外であるため、ミリアッドの特許を無効とする確認判決を求めて提訴した。
ニューヨーク州南部地方裁判所は、自然産物に関するとの理由から争点のクレームを無効とする略式判決を下した。しかし、控訴審において、CAFCは地裁判決を破棄し、全てのクレームの有効性を認めた。
これに対し最高裁判所はCAFCの判決を破棄し、Mayo Collaborative Services対Prometheus Laboratories, Inc., 132 S. Ct. 1289 (2012)の最高裁判決に鑑み、事件を差し戻した。これに対し、CAFCは再び単離DNA及びcDNAは101条の規定に従い特許対象であるとの判決を下した。
争点の組成物クレームは、BRCA1及びBRCA2の単離DNA配列及び人工的に抽出したcDNA配列の両方を対象とした。cDNAは、メッセンジャーリボ核酸(mRNA)から合成され、その合成において、イントロンを除去する工程、すなわちスプライシング工程が含まれ、結果として得られたcDNAにはエキソンのみが残る。
タンパク質をコードするDNAのヌクレオチドはエキソンと呼ばれ、タンパク質をコードしないヌクレオチドはイントロンと呼ばれる。
全員一致の判決では、最高裁はまず単離DNAは特許対象外と認定した。同裁判所は、特許の対象となる発明から特許法上除外される三つのケース、つまり自然法則、自然現象、及び抽象的概念を繰り返し述べた。
最高裁は、ミリアッドはBRCA1及びBRCA2遺伝子においてコードされた遺伝情報を創作または変更していないと指摘した。ミリアッドの発見は、単にBRCA1及びBRCA2遺伝子の位置及びヌクレオチドの配列を決定したのみである。従って、ミリアッドの特許はヌクレオチドの位置及び配列をクレームしたものを超えず、これら双方は発見以前に自然に存在したものであるとしたのである。
最高裁は、ミリアッドが重要かつ有用性の高い遺伝子を発見したことを認めたが、周囲の遺伝物質から遺伝子を分離することは発明と見なされないと判断した。よって、ミリアッドのBRCA1及びBRCA2遺伝子の発見は「自然法則」に基づく除外範囲に相当し、特許の対象外であると判断した。
更に最高裁は、自然発生のDNA分子からBRCA1及びBRCA2の遺伝子配列を化学的に分離する行為は、身体に存在しない新しい分子を作るので特許性有りという、CAFCの論法に同意しなかった。
最高裁は、自然発生のDNAをヒトゲノムから単離することは、新しい、そして自然に発生しない分子を作ることになると認めたものの、ミリアッドのクレームはDNA分子の化学的組成ではなく、遺伝情報に注目していると指摘した。ミリアッドの特許は、ありのままの遺伝情報を対象にしている上、最高裁は、「自然法則」の除外範囲を超えさせるには、化学的な分離だけでは不十分であると認定した。
また最高裁は、米国特許商標局(PTO)が過去に遺伝子特許を付与していた慣例に従うべきであるというミリアッドの主張を拒絶した。最高裁は、遺伝子特許を付与したPTOの行為は議会に承認された行為ではないと指摘し、米国政府はアミカス・クリエ意見書において単離DNAの非特許性を主張した。
合成cDNAに関しては、最高裁は異なる結論に至った。cDNAは非コード領域を除去して作られる。ここで最高裁は、cDNAを作ることで検査技師は新しい分子を創作していると判断した。最高裁は、cDNAはその由来したDNAとは異なるため、「自然産物」ではなく、101条下で特許の対象となると結論づけた。
最高裁はさらに次の三点を指摘した。第一に、この事件は方法クレームが争点となっていないし、判決による関連付けもされていない。関連する方法クレームについて、CAFCによる審理を要求されたが、最高裁はこれについて裁量上訴を認めなかった。よって、BRCA1及びBRCA2遺伝子を用いる革新的方法は特許の対象となる可能性は残る。第二に、この事件はBRCA1及びBRCA2遺伝子に関する新しい用途に関する特許を含まなかった。第三として、最高裁は、自然に発生したヌクレオチドの配列が変更されたDNAの特許性を検討していないことをあげた。
ミリアッドの判決は、「自然法則」が特許対象となる発明主題から除外されることを確認した。この判決はさらに、単離DNA及びcDNAの特許適格性を明確にし、産業及び研究組織の指針となる判決である。「自然法則」の実施が争点となる今後の事件において、引き続き特許対象となる発明主題の範囲が検証されていくものと思われる。
Key Point?この判決において、米国最高裁判所は、単離DNA及び相補的DNA(cDNA)が、米国特許法第101条(35USC§101)の規定に従う特許可能な発明主題であるか否かの争点に対し、単離DNAを特許の対象外とし、一方人工的に合成されたcDNAについては特許取得可能とする全員一致の判決を下した。