他国での侵害訴訟の発生で、米国内で確認訴訟を求める事件性を認めた判決,直接侵害が発生していない、間接侵害または明確な侵害発生予定日が明確でない、また侵害の警告もない、更には直接侵害行為の発生時点が1年先であったとしても、その訴訟に関連する技術の不正使用を特許権者が訴えているとか、他国でその特許に基づく侵害訴訟が既に発生していれば、確認判決を求めるための事件性が既に成立していることをCAFCはこの判決で認めた。
他国での侵害訴訟の発生で、米国内で確認訴訟を求める事件性を認めた判決
アルケマ(Arkema, Inc.)事件においてCAFCは、潜在的な間接侵害者が確認判決訴訟を提起するための要件について言及した。(i)直接侵害が現在のところ生じておらず、(ii)将来的な直接侵害者もしくは侵害日が明確ではなく、(iii)製造業者に対して何ら潜在的な間接侵害の警告もしておらず、そして(iv)直接侵害行為の始点が少なくとも1年先である状況では、製造業者は間接侵害者としての責任は生じていないので製造業者が裁判を求める現実の紛争はないとの地方裁判所の認定を、CAFCは破棄した。
ハネウェル(Honeywell)は、ある特有の冷却化合物を含む熱伝導化合物に関するヨーロッパ特許および米国特許の特許権者である。
2009年、ハネウェルは、アルケマのドイツ国内での冷却化合物の販売申込みに対し、ヨーロッパ特許権の侵害行為を主張してドイツ国内で提訴した。
2010年、アルケマは、米国特許は無効であり、アルケマの米国の自動車メーカーへの冷却化合物の販売計画は特許権を侵害しないという確認判決を求めて、米国で訴状を提出した。
アルケマは、米国内で自動車メーカーに冷却材を供給するためにハネウェルと競争することを希望し続けており、主に米国の自動車製メーカーが自動車のエアコン・システムに採用するためだけに冷却材を購入することを認めた。
ディスカバリー手続の期間中、ハネウェルは係争中の特許に基づく2つの継続出願に対する特許権を付与された。それらは、冷却材を包含する化合物を用いた空気の冷却方法に関するものであった。そのうちの1つの特許は、特に自動車内の空気を冷却する方法に関するものであった。
アルケマは、米国の自動車メーカーへ冷却材を販売しようと進めることで、その新しい特許権に基づく侵害行為で訴えられることを恐れ、確認判決の訴状にその2つの新しい特許権を追加することを申し立てた。地方裁判所はアルケマの追加の申し立てを却下した。
地方裁判所は、追加が認められていたとしても過度な不利益はないが、アルケマの主張には合衆国憲法第3節の事件または紛争性が存在しないため、訴訟の対象にならないと認定した。
地方裁判所は、アルケマは単なるサプライヤーとして、冷却材の使用方法だけをカバーした新たな特許権を直接侵害する方法で冷却材を使用する意図は一切なかったことから、アルケマは継続出願の特許権の直接侵害で提訴されるべきではない、と理由付けた。
さらに、地方裁判所は、アルケマが現在または近い将来に直接侵害の法的責任に直面する危険性はない、と結論付けた。これに対しアルケマは控訴した。
CAFCは確認判決法および最高裁判例に着目した。最も関連性のある判例としてMedImmune Inc.対Genentech, Inc.事件の最高裁判決を挙げた。その判決では、確認判決裁判の原告が権利を放棄すること、または、手続きのリスクを負うことのどちらかの選択を強いられている場合には、第3節に基づく確認判決の適格性が存在すると結論付けた。
控訴審においてCAFCは、この事件の事実が確認裁判による救済を必要としている状況を呈していると結論付けた。アルケマは、自動車のエアコン・システムへの用途で自動車メーカーに対する冷却材の販売を計画しており、自動車メーカーとの契約が成立しかけていた。
CAFCは、もしその特許権に対するハネウェルの見解が正しければ、アルケマが契約を進めた場合には重大な責務を被ることになったであろうと理由付けた。したがってCAFCは、冷却材技術に関する法的権利に関し、適切な第3節による紛争が存在すると結論付けた。
CAFCは地方裁判所が依拠したいくつかの事実を考慮し、それらについて個別に言及した。
第一に、地方裁判所は、Arris Grp., Inc.対British Telecomm. PLC.事件においてサプライヤーが提訴した確認判決訴訟の裁判管轄権において、直接侵害行為は必要というよりむしろ十分な要件であるとしたCAFC判決に依拠した。
CAFCは、直接侵害行為が実際に存在したはずであると地方裁判所が示唆したことは誤りであったと結論付けた。
第二に、地方裁判所は、潜在的顧客が直ちに直接侵害行為を犯す可能性があること、そして、いつ直接侵害行為が発生する可能性があるといった証拠を何も提示しなかったという事実にも依拠していた。
CAFCは、この特異性のレベルは必要ではないと示し、さらに、自動車メーカーが販売する自動車にエアコンを設置・テストし、その自動車の購入者がエアコンを使用すると説明した。もしアルケマが冷却材を計画通りに供給すれば、ハネウェルの見解の通り、自動車メーカーとその顧客の両者が特許権を侵害することは疑う余地がないとCAFCは結論付けた。
アルケマには、冷却材を購入予定である特定の製造業者、自動車メーカー、あるいはこれらの特定の購入予定日を示す義務はない。
第三に、地方裁判所は、ハネウェルが新特許権の潜在的な間接侵害を理由としてはアルケマを提訴していなかったと判断した。潜在的な直接・間接侵害者に対する特定の警告は裁判管轄権を確立するためには必要がない、とCAFCは繰り返し説明した。
より厳格な、現在は使われない裁判の合理的理解テストに基づいても、確認判決の原告が訴訟に関連する技術を不正流用したことを特許権者が訴えていれば、確認判決の裁判管轄権に関する十分な紛争が存在するとCAFCは説明した。
ハネウェルは合成物に関する自社の先願に係る米国特許権、および全て同じ冷却材に関するヨーロッパ特許権に対する侵害でアルケマを提訴していた。そのため、ハネウェルは確認判決に関して十分な積極的行為をしていた。
第四に、地方裁判所は、冷却材を使用した製品の販売開始は少なくとも1年先であると予測されたことから、直接侵害行為の始点は直ちに裁判が必要な紛争を生じさせないと認定していた。CAFCは、アルケマが間接侵害の責任を負う可能性がある冷却材の契約に入る状況にあったことを指摘し、この理由付けを採用しなかった。
アルケマ事件の判決は、訴訟の途中で係争特許の継続出願について特許権が付与された場合の確認判決訴訟の裁判管轄権の範囲について見解を示した。このような状況の下では、事件または紛争要件に混乱することなく、継続中の確認裁判の管轄権に関連特許権を追加すべきである。
Key Point?直接侵害が発生していない、間接侵害または明確な侵害発生予定日が明確でない、また侵害の警告もない、更には直接侵害行為の発生時点が1年先であったとしても、その訴訟に関連する技術の不正使用を特許権者が訴えているとか、他国でその特許に基づく侵害訴訟が既に発生していれば、確認判決を求めるための事件性が既に成立していることをCAFCはこの判決で認めた。