CAFC判決

CAFC判決

Aristocrat Technologies Augstralia Pty, Ltd. and Aristocrat Technologies, Inc. 対 International Game Technology and IGT事件

No. 2008-1016,2008,12,22-Sep-08

この事件では、特許出願の手続中に失効した出願の復活後に成立した特許に基づく権利行使に対し、その復活が不当であるとの理由で、被告は特許無効を主張しました。地方裁判所は被告の主張を認め、特許無効の判決を下しましたが、CAFCは、「不当な出願復活」の主張は、特許無効の抗弁としては機能しないとして、これを破棄しました。米国特許法第101, 102,103条における、新規性、有用性、適格性、及び非自明性だけがいわゆる特許要件であり、これらのみを無効の主張に用いるのが妥当であると判示しました。

不当な出願復活の主張が侵害訴訟における特許無効の抗弁として機能しうるかどうかを扱った事件

この事件では、特許侵害または特許無効の争いにおいて、「不当な出願復活」が抗弁として適切であるか否かが争点とされた。

特許出願人は、米国特許商標庁(以下、「USPTO」)に「放棄出願」の復活を求めて請願書を提出することができる。出願の放棄は、出願人がUSPTOの要求する期間内に必要な手続きを行わなかったことを理由に、USPTOが審査継続件のリストからその出願を除外した場合に成立する(注1)。

復活の請願書は、放棄出願を復活させ、USPTOにおける審査中の出願のリストに戻すことを求めるものである。USPTOは、米国特許施行規則(37C.F.R.)1.137に基づく復活の請願書の提出に関し、様々な規準を示している。

本事件は、スロットマシーンに関する米国特許第7,056,215号(215特許)及び第7,108,603号(603特許)を扱っている。1997年7月8日、Aristocrat Technologies Australia Pty Ltd. 及びAristocrat Technologies, Inc.(合わせて以下、「アリストクラット」)は、2つの米国特許仮出願を提出した。

両方の仮出願は、共に「改良されたジャックポットの特徴を備えたスロットマシーンゲーム及びシステム」に関するものであった。

1998年7月8日、アリストクラットは国際特許出願(以下、PCT出願)を提出した。PCT出願において、アリストクラットは以前提出した2つの米国特許仮出願に基づく優先権を主張した。その後、アリストクラットのPCT出願は公開された。

PCT出願の米国国内移行の要件を満たすために、アリストクラットは2000年1月10日までに出願料を納付しなければならなかったが、USPTOは、アリストクラットの出願料を1日後の2000年1月11日に受領した。

その結果、USPTOは、37 C.F.R.1.137(a)及び(b)に基づく特許出願復活の請願書提出の示唆を含む「放棄通知」をアリストクラット宛に発送した。

アリストクラットはその請願書の代わりに、「Petition to Correct the Date-In」-移行出願料の受領日を訂正する請願書を提出したが、USPTOはこの請願書を拒絶した。その後、アリストクラットは、215特許の移行出願料納付の遅延は「故意ではない」ことを主張して、37C.F.R.1.137(b)に基づく出願復活の請願書を提出した。

2002年9月3日、USPTOはアリストクラットが37C.F. R.1.137(b)の要件を満たしていると判断し、出願復活の請願書を認めた。

USPTOが215特許の出願復活の請願書を認めた後、アリストクラットは215特許出願の手続を再開し、215特許出願の継続出願として603特許出願を提出した。2006年6月6日に215特許が発行され、2006年9月19日に603特許が発行された。

2006年6月、アリストクラットは、電子ゲーム機市場の競合先であるInternational Game Technology とIGT(合わせて以下、IGT)に対し、215特許の侵害行為を理由にカリフォルニア州北地区地方裁判所に提訴した。

603特許が付与された後、アリストクラットは、IGTが603特許も侵害したと主張して訴状を補正した。

IGTは「不当な出願復活」説を用いて特許無効の略式判決を申し立てた。特にIGTは、適切に215特許出願を復活させるためには、アリストクラットは単なる「故意ではない」遅延理由だけではなく、「不可避の」遅延理由を示す必要があったと主張した。

こうしてIGTは、USPTOがアリストクラットに対し、「故意ではない遅延」の証明だけを要求したことで、アリストクラットの215特許出願を「不当に復活させた」と主張した。

IGTはさらに、アリストクラットが不適切に215特許出願を復活させたので、「特許法第282条(b)に基づき、215特許は603特許の先行技術を構成し、603特許は公知文献である」と主張し、603特許の無効を主張した。

地方裁判所は、特許法第282条に基づき、IGTは「不当な特許出願復活」の抗弁を主張できると認定し、IGTの略式判決の申立を認容し(注2)、215特許出願の復活は不当であり、それにより、特許法第102条(b)に基づく先行技術として603特許を無効とするものであると理由付けし、両特許は無効であると判断した(注3)。

CAFCは、特許侵害や特許無効の争いにおいて、不当な出願復活の主張は抗弁とはならないとして、地方裁判所の略式判決を破棄した。不当な特許出願復活による抗弁は裁判所の管轄外であることから、CAFCは603特許の新規性に関する略式判決も破棄した。

CAFCは、不当な出願復活が特許侵害裁判の抗弁として使用され得るとの判断に、地方裁判所が特許法第282条(2)及び(3)に依拠したと説明し、地方裁判所が「本法第II部に規定された特許要件を理由とする特許またはクレームの無効の抗弁を用いることができる」と規定した282条(2)に不適切に依拠したと述べた。

CAFCは、特許法第101、102、103条に新規性、有用性、保護対象としての適格性、及び非自明性を含む「特許要件」が記載されていると説明(注4)、さらに、数多くの他の要素が特許の有効性及び実施可能性に影響するが、新規性、有用性、保護対象としての適格性、及び非自明性だけがいわゆる特許要件であり、それらのみが適切な無効の抗弁に用いられる、したがって、不当な特許出願の復活は、第282条(b)に基づく適切な無効の抗弁とはならないと判示した。

CAFCはさらに、地方裁判所の定義付けとは反対に、不当な特許出願の復活は、特許法(Title 35)による抗弁とはならないことを理由に、「本法により抗弁として認められた事実または行為」による抗弁を用いることができると規定した第282条(4)に基づく適切な抗弁ではないと説明した。

CAFCは、連邦議会は特許法の制定法において、どのような場合に無効あるいは非侵害の抗弁を生ずるかを明瞭に定めており、特許法の中で、失効した出願を復活させる請願書に関して無効あるいは非侵害の抗弁を認めていない。

具体的には、特許法133条及び371条は、特許出願の失効について述べているが、別途、これらの規定が侵害の抗弁をもたらすことを示す議会によって与えられた証拠はない。

CAFCは、これらの規定は、「どのような状況で特許出願が審査中に放棄と見なされ、どのような状況でそれが復活されるかを単に記述したものである」と述べた。これらの理由から、CAFCは、不当な出願復活は、特許裁判の抗弁として主張されるものではないと判示した。

アリストクラット事件の判決は、特許無効性あるいは特許侵害裁判において当事者にとって有効な抗弁について述べており、不当な出願復活は認識されない抗弁であることを明らかにした点で重要である。この事件は、特許侵害あるいは特許無効の裁判に対し、抗弁しようとする者にとって、適切な主張が重要であることを教えている。