本件は、発明の自明性について、引例同士の組み合わせが問題となった事件です。裁判所は、引例に組み合わせの動機けが明記されていなくても、専門家の証言と先行技術から黙示的に引例の組み合わせの動機付けが理解できると判断しました。
自明性判断における組み合わせの動機付け
Alza事件において、CAFCは地方裁判所の自明性に基づく特許の非侵害及び無効性の判決を維持した。CAFCは更に、米国特許法103条に基づく自明性を判断するにあたり、先行技術には、「黙示的」に先行技術の「組み合わせの動機付け」があるとした。
Alza事件は、Alzaを譲受人とする米国特許第6,124,355号(以下、355特許)に関する。355特許は尿失禁の治療薬で、オキシブニチニンの持続放出製剤に関する。被告、Mylanは「1日1回投与のオキシブニチニンの放出制御製剤」をFDAに医薬品簡略承認「ANDA」申請をした。その後に、Alzaは西バージニア州北部地区地方裁判所に特許侵害で訴訟を提起した。Mylanは355特許は無効であるため、非侵害であると弁駁した。
先行技術を分析するにあたり、裁判所は第一に、その技術分野における当業者の技術水準を審査した。裁判所は、争点となっている特許技術の当業者は、「薬学、生物学、化学もしくは化学工学の大学院卒で少なくとも放出制御技術の2年の経験を持つ者か、もしくは1つ(もしくは複数)の分野の学卒でそのような技術の5年の経験を持つ者」と結論付けた。第二に、裁判所は先行技術における「動機付け」もしくは、当業者が先行技術の組み合わせを導くものを探した。第三に、裁判所は非自明性の二次的考察を検討した。証拠を考慮しても、裁判所はMylanがAlza特許の自明性に関する無効性を証明し、Alzaは特許侵害を証明することができなかったと判断した。
ベンチトライアル後、地方裁判所はAlzaが355特許の侵害を証明しきれず、新規性と自明性で特許が無効とされた。自明性を証明するために、裁判所はとりわけ米国特許第5,399,359号(Baichwal)と第5,082,688号(Wong)と第5,330,766号(Morella)とMylanの専門家の証言に基づいて判断した。
Alzaは地方裁判所がオキシブニチニンの持続放出製剤が自明であると判断したことは誤りであると主張した。なぜなら当業者は「まず第一に、Morella、Baichwal,、Wong技術 をオキシブニチニンに適用する」という動機付けに欠如していたためである。持続放出製剤は胃、小腸、大腸をも含む胃腸管「GI tract」を通過する時に薬剤が徐々に放出されるものであり、最終的に血中に吸収される。Alzaは証拠を提出して、当業者は腸でオキシブニチニンが吸収されるとは認識しない、従って、持続放出製剤を創作する動機付けが欠如していると主張した。しかしながら、Mylanの専門家は「オキシブニチニンが高度浸透化合物であり、当業者であれば大腸を含む胃腸管を通じて急速に血中に吸収されると予期できる」と証言した。
CAFCは地方裁判所の判決を支持し、先行技術及び専門家の証言からも黙示的に引例の組み合わせの動機付けが理解できるとした。CAFCは、「専門家の証言が、ある時期における当業者の知識を確定できる場合、裁判所の自明性の評価に対する適切な証拠となる。」と判断した。CAFCは地方裁判所の自明性の判断を支持し、新規性に関しては触れなかった。
本件は、自明性の分析をするにあたり、全体としてみた場合に、専門家の証言と先行技術から黙示的に引例の組み合わせの動機付けが理解できるとしている。引例の組み合わせが現実に記載されている必要はないのである。なお、本件は、最高裁判所がKSR事件を判断する前に、CAFCが発明の組み合わせの自明性の分析基準を説明しようとした一例であると考えられている。