この事件でCAFCは、PTABによるIPR決定(特許有効)に対する上訴において、裁判提起のための憲法上の要件である争訟性がないとして、原告であるIPR申請者の「原告適格」(standing)を否定した。
特許有効のIPR決定に対する上訴において原告適格が否定された事件
Cloudbreak Therapeuticsは、白目の組織が黒目の中央に向かって進入する眼病(pterygium)の治療剤および治療方法に関する特許(第10,149,820号)を保有する。Allgenesis Biotherapeuticsは、820特許の全クレームのIPRを申請した。特許保有者(Cloudbreak)は、クレーム4と5を残して他のクレームを権利放棄(disclaim)した。クレーム4と5は有効成分nintedatebに関連する。
PTABは、Allgenesisが引用した無効資料(Allgenesis自身が行った特許出願)よりも820特許の優先権主張日が早い、引用した先行文献を組み合わせても820特許の発明が自明だとはいえない、、としてAllgenesisの新規性及び自明性を根拠とした特許無効の主張を退け、両クレームを有効と認定した。AllgenesisはPTABの認定を不服としてCAFCに控訴。
CAFCはAllgenesisの控訴を、次のように述べて棄却した。本件で控訴が認められるためには、Allgenesisは「原告適格」(standing)をもつことを立証しなければならない。そのためには、「事実上の被害の存在」「事実上の被害とIRP申請との因果関係」、「司法判断による問題の解決」を立証しなければならない。「事実上の被害」の立証には、個別・具体的に自分の利益が浸食されていることを立証する必要がある。Allgenesisは特許侵害のリスクを控訴理由に挙げるが、特許侵害のリスクを増大させるような計画又は特許権者に侵害請求を主張させることになる計画があることを具体的に立証していない。また、宣誓供述書の中でも、Allgenesisは具体的にどのような将来の開発計画や臨床計画があるかが示されておらず、結論を述べるだけで、nintedanib治療薬の開発契約や上市計画の具体的な裏付けがない。nintedanib製品を上市する時に和解交渉をしなければならないと主張するが、Cloudbreakが訴訟を提起したことや侵害警告があったことが主張されておらず、侵害訴訟の蓋然性の立証は十分にされていない。したがって、「事実上の被害の存在」要件は充足されていない。
侵害訴訟が提起されていない状況でのIPR(いわゆる「先取りIPR」)については、控訴に対するハードルが高いことを示す好例である。原告適格が争われたCAFCの事例として、General Electric Co.対Raytheon Technologies Corp.事件(December 23, 2020)がある。