抽象概念をコンピュータに実行させるだけの発明では特許適格性を欠くと論じたAlice判決,アリス事件の最高裁判決は、過去にビジネス方法およびソフトウェア特許が特許適格性ありと判断されていたとしても、更にそのような発明の特許適格性の基準を高めた点で重要である。最高裁は、抽象概念をコンピュータ・システムと単純に組み合わせても特許付与されないことを明確にした。コンピュータの機能を改良したり、その分野の技術を向上させる場合に特許適格性が認められる見解を示した。
抽象概念をコンピュータに実行させるだけの発明では特許適格性を欠くと論じたAlice判決
アリス(Alice Corp.)は米国特許第5,970,479号および6,912,510号および7,149,720号および7,725,375号の特許権者である。これらの特許は、どちらか一方の当事者だけが義務を履行するといった、商取引上の債務不履行による金融リスクである「決済リスク」を、コンピュータ化された手法により軽減する方法に関する。
4件の特許は類似した明細書を共有し、(1)債務取引方法、(2) 債務取引方法を実行するコンピュータ・システム、(3)債務取引方法を実行するプログラムコードを含むコンピュータ読取可能な記録媒体、に関するクレームを含んでいた。
特に、方法クレームは、「監督機関」としての役割の第三者による仲介役を立て、(a)各当事者の実際の口座のミラーとなるシャドー・クレジットあるいはシャドー・デビット・レコードを作り、(b)各シャドー・クレジットまたはシャドー・デビット・レコードの朝の取引開始時点での口座残高を入手し、(c)監督機関が個々の取引を反映してシャドー・クレジットまたはシャドー・デビット・レコードを調整し、取引当事者が債務取引を履行する十分な資金を持っていることをシャドー・レコードが示している場合には取引を許諾し、(d)一日の終わりに、監督機関は銀行などの取引機関に対し、許諾した取引を実行するよう指示を与えることで、決済リスクを軽減する工程を包含していた。コンピュータ・システムまたはコンピュータ読取可能な記録媒体に関するクレームと共に、当事者らは、方法クレームはコンピュータの使用も要件とすると明記していた。
2007年、CLS Bank International およびCLS Services, Ltd. (合わせて以下、「CLS銀行」)は、アリスを相手取り、争点のクレームの無効、権利行使不能、あるいは特許権侵害なしの宣言的判決を求めて地方裁判所へ提訴した。
アリスはCLS銀行の特許権侵害を主張して反訴した。両者の交差した略式判決の申立てを審理して、地方裁判所は、全てのクレームは抽象的概念に関することを理由に、特許法101条に基づき特許適格性がないと判示した。
控訴審において、CAFC合議体は地方裁判所の判決を破棄した。その後、CAFCは大法廷での再ヒアリングを認め、大法廷は合議体判決を破棄し、地方裁判所の判決を追認した。
CAFCの大法廷は、数名の判事が地方裁判所の判決を支持する異なる理由を示した個別の見解を出したものの、一つの裁判所判断を出した。第三者の仲介役を用いて決済リスクを軽減する「コンピュータに組み込まれたスキーム」に関するクレームに特許法第101条に基づく特許適格性があるか否かの争点に関し、最高裁は裁量上訴を認めた。最高裁は全員一致でCAFCの大法廷判決を支持した。
最高裁は、Mayo Collaborative Servs.対 Prometheus Labs, Inc.事件(132 S. Ct. 1289 (2012))で述べられたtwo-partの分析フレームワークを適用して特許適格性の分析を開始し、(1)争点のクレームが特許適格性のない概念に関するものであるか否か、および、(2)クレーム要素が個々にまたは全体として、特許適格性のある適用へ「変換」するような発明概念を持っているか否かを検討した。
最高裁は、クレームは仲介決済についての抽象概念を述べているに過ぎず、特許適格性がないと結論付けた。Bilski対Kappos事件(561 U.S. 593 (2010))におけるリスクヘッジに関する特許適格性のない抽象概念のクレームとの類似性を述べて、最高裁は、Bilski事件におけるリスクヘッジの概念と、本件における仲介決済の概念との間には、大きな相違点はないと判断した。
最高裁は、方法クレームにおける汎用コンピュータの要件は、特許適格性のない概念を適格性のある発明へ変換するものではないと結論付け、抽象概念を実装するコンピュータ・システムの使用を単に記述するだけでは特許適格性を確立するには不十分であると述べた。
最高裁は、クレームは、不特定の汎用コンピュータを用いた仲介決済という抽象概念のコンピュータへの適用を記述していると判断した。
更に、最高裁は、この特許適格性のない方法クレームは「コンピュータ自体の機能を改善するものではなく」、「その分野の技術を向上させる効果がない」と説明し、抽象概念にもこれらが備わる場合は特許適格性を持つ可能性があることを指摘した。
方法クレームを特許適格性なしと認定した後で、最高裁はコンピュータ・システムに関するクレームについて述べ、システムクレームも方法クレームと同様な評価であるとした。クレームは特定のハードウェアについて言及しているが、システムクレームは、特許適格性のある発明に変換するほどの「発明概念」に欠けると最高裁は判断した。
アリスは以前、コンピュータ読取可能な記録媒体クレームも方法クレームと同様なものだと述べていた。そこで、全てのクレームは特許適格性のない抽象概念であり無効であると最高裁は判決した。
Key Point?アリス事件の最高裁判決は、過去にビジネス方法およびソフトウェア特許が特許適格性ありと判断されていたとしても、更にそのような発明の特許適格性の基準を高めた点で重要である。最高裁は、抽象概念をコンピュータ・システムと単純に組み合わせても特許付与されないことを明確にした。コンピュータの機能を改良したり、その分野の技術を向上させる場合に特許適格性が認められる見解を示した。