CAFC判決

CAFC判決

Abraxis Bioscience, Inc. (formerly known as AstraZeneca Pharmaceuticals LP and AstraZeneca UK LTD.) 対 Mayne Pharma (USA) Inc.事件

No. 467 F.3d 1370,2007,2,Fed. Cir. 2006

本件は、置換可能性の認識があったか否かに応じて均等侵害を認めるか否かが争われた事件です。特に、本発明は「派生物」も均等物に該当しうることを認めた点が注目されます。また、文言侵害は破棄されながらも、均等侵害が認定された点も注目されます。

文言侵害が否定されたものに均等侵害が認められた事件

Abraxis Bioscience, Inc事件において、CAFCは、ニューヨーク州南地区地方裁判所が、「エデト酸」というクレームの解釈を誤ったと認定し、クレーム解釈に基づく文言上の侵害認定を破棄した。しかしながら、CAFCは、提訴された製品に対する地方裁判所による均等論に基づく侵害判断は正しいと認定した。

AstraZenecaは、患者を全身麻酔および沈静状態に導入・維持する目的に使用する、独自の医薬品の販売を米国内で開始した。製品は人間用としてDIPRIVANR、及び、動物用としてRAPINOVETRという製品名で販売された。投与回数を減らせるよう改良した処方の開発段階で、発明者らは、防腐作用のあるエデト酸2ナトリウムに、少なくとも24時間は、水中油型乳剤を分離させることなく、プロポフォール製剤内の微生物増殖を遅らせる効果があることを発見した。この効果は予想外なものであった。AstraZenecaは追加の新薬申請(NDA)の認可を受け、改良型DIPRIVANRの市場における3年間の独占販売が認められた。

改良型DIPRIVANRの処方は、米国特許第5,714,520号(以下、520特許)、第5,731,355号(355特許)、及び第5,731,356号(356特許)によってカバーされていた。Abraxis Bioscience, Inc.(以下、Abraxis)は改良された製剤をカバーするこれら3つの特許の譲受人であり、AstraZenecaの後継企業である。

Wyeth Pharmaceuticals, Inc.(以下、Wyeth)の事業部であるESI Lederle(以下、ESI)は、1995年、AstraZencaが抗菌剤を加えることにより薬剤の配合を再処方したことを知り、同様のジェネリックな処方を開発することを決定した。ESIは最終的に、抗菌剤としてAstraZenecaが用いたエデト酸を、三ナトリウムカルシウムDTPA(DTPAは、ジエチレントリアミン5酢酸の略)という別の成分に置き換えた。ESIは薬剤の配合に関し、米国特許第6,028,108号(以下、108特許)を取得した。

WyethとESIがジェネリック・プロポフォール製剤を商業的に製造・使用・販売することを通知した後に、AstraZenecaは、両社に対し最初の訴訟を提起し、間接的なESIの譲受人であるMayne Pharma (USA) Inc.(以下、Mayne)に対し第二の訴訟を提起した。これら2つの訴訟は併合された。

CAFCにおける控訴審の争点は、地方裁判所によって定義された「エデト酸」という文言に関する地方裁判所のマークマンルールの適用に関してであった。地方裁判所は、「エデト酸」を、「EDTA(EDTAとは、エチレンジアミン4酢酸の略)および、どのように合成されたかに関係なく構造的にEDTAに関連した合成物」と定義していた。この解釈に基づき、地方裁判所は、Mayneのジェネリック・プロポフォール製剤は、争点の特許のクレームを文言上侵害しているとともに、均等論に基づいて侵害していると結論付け、AstraZenecaの主張を認める判決を下した。

特に構造的類似体を「派生物」として含めることにより、「エデト酸」の過剰に広義な定義を地方裁判所が採用したことは誤りである、とMayneは主張した。また、Mayneは、その定義は内在証拠によって裏付けされていないと主張した。しかし、AstraZenecaは、地方裁判所の定義は正しく、特に明細書中の説明に照らしてみれば、「派生物」の広義な定義の採用は妥当であると反論した。

CAFCは、「派生物」にはEDTAの構造的類似体が含まれるという解釈を内在証拠が裏付けておらず、明細書は「派生物」という文言をより狭義に記載していると判断し、地方裁判所の「派生物」の定義を否認した。CAFCは特に、発明者が挙げたEDTAの幾つかの適切な派生物をリストアップした明細書の記載を指摘し、それらは全てEDTA塩であり、いずれも構造的類似体ではない、と述べた。AstraZenecaの主張を拒絶する上で、CAFCは、明細書全体の文脈においてこれらの説明を読むと、様々なEDTA塩塩を単純にリストアップすることが、「派生物」という文言の定義づけになることは明らかである、と説明した。CAFCは、EDTA塩塩をリストアップするとともに、唯一の有効な抗菌剤としてエデト酸の特異性について説明し、EDTA塩塩を有効で、好ましく、「優れた」抗菌剤として特許権者が説明していることは、「派生物」という文言をEDTA塩塩、もしくはEDTA塩遊離酸構造をもつ合成物に限定するものである、とCAFCは結論付けた。

文言上の侵害の要件としては、クレームの限定要素の全てが提訴された製品に含まれていることが不可欠である。Mayneの三ナトリウムカルシウムDTPAはEDTA塩塩と解釈されないため、CAFCは、Mayneの製品が争点の特許クレームを文言上侵害しないと判断した。

CAFCは、地方裁判所の文言上の侵害認定を破棄したにもかかわらず、均等論に基づく侵害認定を支持した。Mayneの均等論に基づく非侵害の主張は次の3つであった。

裁判所は機能-方法-結果テストにおける「方法」を分析するにあたり、エデト酸の働き方の「方法」を明確に誤って定義した(※機能-方法-結果テスト(function-way-result test)は、同一の結果を得るために、実質的に同一の方法で、実質的に同一の機能を果たすか否かを判断するテスト)。?特許権者が発明を狭義にクレームしているので、均等論に基づきエデト酸の意味を三ナトリウムカルシウムDTPAに拡張するのは、法律上の問題として許されない。?抗菌剤として、エデト酸と三ナトリウムカルシウムDTPAの間の置換可能性の認識の欠如が三ナトリウムカルシウムのDTPAの代替は「実質的な」変化であり均等論に基づく侵害の判断をするのに重要な点である。

地方裁判所の「良く考えた上での」意見が指摘するように、三ナトリウムカルシウムとエデト酸の間に本質的な違いはなく、両者は均等であると、CAFCは、結論付けた。第一に、地方裁判所が本特許と審理中に提示された証拠をもってエデト酸の使用「方法」を適格に判断したと、CAFCは認定した。CAFCは、専門家証言と専門家報告を含む記録された証拠から金属イオンのキレート化による抗菌剤としての2つの化合物の働きが「方法」を満たすものであることを裏付けているとの事実を指摘した。

第二に、CAFCは、均等論に基づけばエデト酸が他のポリアミノカルボン酸塩に拡張されるものであることを認めた。CAFCは、エデト酸をクレームするにあたり、発明者はDTPAを含む他のポリアミノカルボン酸塩を明確に否定しなかったと説明した。特許権者が特許クレームの審査過程でそのような化合物の放棄を明確ではっきりと主張したとする証拠がないと、CAFCは判断した。

第三に、CAFCは、抗菌剤としてのエデト酸とDTPAの置換可能性の認識の欠如から、提訴された製品には均等物による侵害がないという反論を否定した。更に、CAFCは置換可能性の認識の欠如から、特許権者がこのコンビネーションでDTPAをクレームすることを予見する根拠はないとしてAstraZenecaの主張を支持した。そのため、CAFCはMayneの三ナトリウムカルシウムDTPAとAstraZenecaのエデト酸の間に非本質的な違いが存在することを認定したことには明白な誤りはないとした。

本件では、CAFCは、争点となったクレームの解釈を狭めるような証拠が発見されたため文言上の侵害認定を破棄したが、地方裁判所の均等論に基づく侵害認定を維持した。本件は、裁判所のクレーム解釈の重要性及び発明とその均等物をカバーできるよう十分に広いクレームを記載することの重要性を示す事件である。本件が示すように、被告人が特許権を侵害するか否かは、クレーム文言の解釈に大きく依存している。