CAFC判決

CAFC判決

1st Media, LLC 対 Electronic Arts, Inc. 事件

No. 2010-1435,2012,12,13-Sep-12

この事件においてCAFCは、Therasense事件における不正行為の立証基準に基づき、特許審査経過において文献を開示しなかったことによる不正行為の認定を覆し、文献の存在およびその文献の重要性を知っていただけでは、PTOを欺く意思があったことを立証するには不十分であると判示しました。

ファーストメディア(1st Media)事件においてCAFCは、Therasense Inc. 対 Becton, Dickinson & Co., 649 F.3d 1276 (Fed. Cir. 2011)事件で、不正行為の立証基準を変更した先の大法廷における判決を裏付ける判決を下した。

ファーストメディア事件においてCAFCは、米国特許商標庁(PTO)への文献非開示に基づく不正行為の主張にTherasense事件の判例を適用し、非開示引例の重要性を知っていたことは、故意に開示しなかった証拠とはならないと説明した。

ファーストメディアは、Electronic Arts, Inc., Harmonix Music Systems, Inc. Viacom Inc. およびSony Computer Entertainment America(以下、合わせて「被告」)に対し、歌・映像・およびマルチメディア・カラオケの情報を購入する用途のエンターテインメント・システムをカバーする自社の特許を侵害したと主張し提訴した。

被告は、特許権者およびその特許弁護士が、出願の審査手続の間に知り得た3つの文献をPTOに提出していなかったことに基づいて、積極的抗弁として不正行為を主張した。

審理において、特許権者とその特許弁護士の両者は共に、それらの文献の重要性には気付かなかったし、それらを文献開示しようとも思い付かなかったと証言した。

地方裁判所は彼らの文献非開示の説明に信憑性がないと判断し、特許権者とその特許弁護士は文献の重要性に気付いていたと結論付けた。

特許権者とその特許弁護士が、文献非開示について信憑性のある誠実な説明をしなかったことを理由に、地方裁判所は、彼らが特許審査手続においてPTOを欺く意思があったと推定することが妥当であると述べた。

これらの事実認定に基づき、地方裁判所は特許権者とその特許弁護士が不正行為を行ったと結論付けた。

しかしながら、地方裁判所はこの判決をTherasense事件のCAFC判決以前に下していた。Therasense事件においてCAFCは、不正行為の立証基準を次のように明示した。

侵害被疑者は、(1)特許権者がPTOを欺く明確な意思を持って行ったこと、および、(2)違法行為が特許性に重要な意味を持つこと、に関する明瞭かつ説得力ある証拠により不正行為を立証しなければならない。

Therasense事件の裁判所は、不正行為が無かったならば、特許は付与されなかったはずであることを立証することを要件とする、高度な重要性の基準を設定した。

Therasense事件は、一方の要素の強力な証拠開示が他方の弱い証拠に勝る、という重要性と意思の認定の釣り合いをとっていた過去の判例法も覆した。こうして、Therasense事件の基準の下では、重要性と意思という別個の異なる要素の両方を立証していなければ、不正行為とは認定されない。

控訴審においてCAFCは、Therasense事件に依拠して地裁判決を破棄し、特許権者とその特許弁護士が、既知の文献を故意にPTOへ提出しなかったことを証明する立証責任を、被告は果たしていなかったと判示した。

CAFCは、特許権者がその文献の存在、およびその文献の重要性も知っていたとしても、明確な欺く意思の立証には不十分であると説明し、さらに、不注意、注意不足、管理不十分あるいは他の怠慢行為は、欺く意思の立証には不十分であるとも述べた。

Therasense事件に基づくと、今後裁判所は、文献が既知のものでかつ重要であったという理由だけで欺く意思を推断することはできない、とCAFCは説明した。さらに、特許権者は、侵害被疑者が明瞭かつ説得力ある証拠により欺く意思の立証責任を果たさない限り、自身の行為の誠実さを説明する必要はないとも述べた。

この事件においてCAFCは、特許権者とその特許弁護士にPTOを欺く意思があったという直接の証拠がなく、また、(引例が包袋に)記録されなかったということは、彼らが故意に文献を開示しないことに決めたという推定を裏付けるものでもないと述べた。

ファーストメディア事件は、CAFCのTherasense事件による基準が、不正行為の抗弁、特に文献非開示による不正行為の抗弁の維持をより困難にしていることを示唆している。

CAFCは、不正行為の立証における制約が大きいこと、ならびに文献非開示による不正行為を主張しようとする侵害被疑者が抗弁を成功させるためには、PTOを欺いたことが故意であることの有力な証拠を提示しなければならないことを明らかにしたわけである。

今後の裁判における不正行為の立証基準がより難しい基準になったことを受けて、特許審査手続における情報開示戦略が大きく変わるかどうかは現時点では不明である。

Key Point?この事件においてCAFCは、Therasense事件における不正行為の立証基準に基づき、特許審査経過において文献を開示しなかったことによる不正行為の認定を覆し、文献の存在およびその文献の重要性を知っていただけでは、PTOを欺く意思があったことを立証するには不十分であると判示した。