CAFC判決

CAFC判決

オメプラゾール特許訴訟

Nos. 2007-1414, -1416, -1458, -1459,2008,11,20-Aug-08

この事件は、胸焼け用大衆薬であるプリロセック(PrilosecR)の有効成分、オメプラゾールに関する2つの特許の有効性を争った事件です。CAFCはジェネリック医薬品会社であるApotex及びImpaxの特許権侵害を認めた地方裁判所の判決を維持しました。この長期間に及ぶ訴訟では、判決を前に特許権の存続期間が満了してしまいしたが、本件の場合、特許権の満了後にいくつかの主張が被告から提出されたことにより裁判管轄権が維持されました。

特許権の存続期間満了後において訴訟を提起するための条件について

この件は、胸焼け用大衆薬であるプリロセック(Prilosec?)に関する2つの特許の有効性を争った事件である。

この広域係属訴訟は、アポテックス(Apotex Corp., Apotex Inc.)並びにトーファーム(Torpharm, Inc.)(以下、合わせて「アポテックス」)、及びインパックス(Impax Laboratories, Inc.)を被告とし、原告であるアストラゼナカグループ(Astrazeneca AB, Akiebolaget Hassle, KBI-E, Inc., KBI, Inc. 及びAstrazeneca LP 、以下、合わせて「アストラ」)が、胸焼け用医薬品であるプリロセックの有効成分であるオメプラゾールの組成に関するアストラの特許権を侵害されたとして、最初に提訴したものである。

この裁判において、地方裁判所は、特許権の侵害を認定し、アポテックスとインパックスに不利な判決を下した。

CAFCは、アポテックスがアストラゼネカの特許が予見性及び自明性を理由に無効であることを適切に立証しておらず、また、インパックスはアストラゼネカの特許が米国特許法第102条(b)の公用によって無効であることを立証しなかったことを地方裁判所が適切に認定したと判断した。

控訴審の対象となった特許は米国特許第4,786,505号及び第4,853,230号(以下、それぞれ、「230特許」「505特許」)である。

両特許はオメプラゾールを包含した医薬品に関するものである。オメプラゾールは胃酸の過剰分泌に対する強力な阻害剤であり、胃酸による分解及び中性溶媒の影響を受けやすい。

両特許は医薬品の異なる層の様々な組成物に関するもので、医薬品の効果を引き出し、有効期限を延ばした。

具体的には、505特許はオメプラゾールを包含する医薬品製剤に関するものであり、230特許は「酸に不安定な医薬有効成分」をより広範囲にカバーした製剤に関するものであった。

1999年12月31日、インパックスは食品医薬品局(FDA)に対し、10~20㎎のプリロセックについてのジェネリック薬品の販売認可を申請した。

それを受けてアストラは、505特許及び230特許の各特許権を侵害しているとして提訴した。

アストラは、インパックスが40㎎の製品を包含するように申請を修正した後で、インパックスに対し第二の訴訟を提起した。2004年9月、FDAはインパックスに対し、10~20㎎のオメプラゾール製品の販売を最終的に認めた。

インパックスは認可された製品の販売を開始し、それを受けてアストラは、直ちに訴状に損害額の主張を含める修正をした。

インパックスはアストラが2回目に修正した訴状に対し答弁書を提出し、アストラの提訴が詐欺的訴訟であること、両特許が行使不可能であること、及び、両特許の全てのクレームに対する特許権非侵害と特許の無効を主張する反訴を提起した。

その当時、アストラの損害額及び故意侵害の主張は、この事件の責任問題の解決とは切り離されて保留となり、それらの裁定は法的責任が決定された後に下されることになった。

2005年12月1日のヒアリングにおいて、アストラは、他の被告らとのベンチトライアルにおいてインパックスに対するアストラの主張に関して審理を地方裁判所が併合できるようにするため、損害賠償を求めた侵害の主張を、損害賠償を求めていない主張から切り離すことを裁判所に申請した。

地方裁判所は、陪審裁判を受ける権利をインパックスが有しているかどうかについて審理した。その答弁において、アストラは、もし、地方裁判所がインパックスに対する主張をベンチトライアルにおいて審理するならば、インパックスに対する損害額の要求を取り下げることに同意すると述べた。

この要求により、裁判所はインパックスの陪審裁判の申し立てを却下し、インパックスに対する主張を他の被告らに対する主張に併合した。

次に地方裁判所は42日間の非陪審裁判を行った。この裁判の後、判決を下す前に両特許は権利期間満了となった。インパックスは、アストラがインパックスに対する損害額の主張を取り下げたことから、特許権の満了を理由にアストラの主張が非現実的であるとして、アストラの主張を却下するよう申し立てた。

しかしながら、FDAはアストラに対し、505及び203特許について存続期間の満了後6ヶ月間の市場優先権を認めていたので、地方裁判所はこの申し立てを却下した。

この決定の際に、地方裁判所は、アストラの特許が有効で、権利行使可能であり、インパックスにより侵害されていたと認定した。したがって、裁判所は、インパックスのANDAの発効日を、アストラが有している6ヶ月間の市場優先権期間の満了後である2007年10月20日に設定した。

CAFCでの控訴審において、インパックスは、地方裁判所が陪審裁判の要求を却下したこと、及び、非現実であることを理由としたアストラの主張の却下の申し立てを棄却したことは誤りであったと主張した。

インパックスはさらに、侵害の証拠が不十分であること、及び地方裁判所が公用に基づく2つの特許の無効を認定しなかったことは誤りであったと主張した。

この判決において、CAFCは、2007年KSR Int’l Co. 対 Teleflex, Inc. 事件の最高裁判決に基づき、自明性の主張を拒絶した。

CAFCは、インパックスの陪審裁判の請求を棄却した地方裁判所の指令を覆すことを拒絶した。また、特許権失効後に提出された幾つかの主張は裁判管轄権を維持する十分な救済理由であると判断して、地方裁判所の判決は特許権失効後であったけれども裁判管轄権は存在したと認定した。

CAFCは、基準日以前に実施化されていないクレームされた発明が意図した用途通りに機能するかどうかを判断するために、この事件において臨床試験は必要であると判断し、これらの臨床試験はテストされた製品の特許性の障害となるような公用とはならないと結論付けた。

CAFCの判決は約10年の訴訟期間の後に下されたが、その間にアポテックスもインパックスもリスクを抱えたまま販売を開始した。

アポテックスに対するアストラゼネカによる特許権の故意侵害、例外的事件か否か、および損害額の主張、ならびに、インパックスに対する故意侵害および例外的事件の主張の解決も含めたさらなる手続きは地方裁判所に差し戻された。

さらに、CAFCの判決は、アストラゼネカにインパックスの販売パートナであるTeva に対する損害額追及の道も開いた。

この事件は、特許権の失効後に争われた場合でも、ある条件のもとで、いかに侵害事件の審理が維持されるかを示した点で興味深い。

また、長期間の訴訟であっても、強力に肯定的な結果をもたらすことができることを示した事件でもある。さらに、薬品が意図した目的通りに機能するかどうかを判断するために臨床試験は必要であり、その臨床試験は特許性の障害となる公用とはならないことを示した。

最後に、訴訟当事者は、侵害訴訟におけるベンチトライアルを上手く利用すべきである。