同一被告に対する2件の侵害訴訟で、1件目(WARF I)では、原告が文言侵害および均等論侵害を主張したが、均等論侵害の主張は事前に明確に放棄された。2件目(WARF II)では、原告が再び均等論侵害を主張したが、CAFCは、1件目で放棄された均等論主張を再提起することが「Kessler原則」に反するとして原告の主張を退けた。
Kessler原則の適用により均等論侵害の再主張を禁じた事件
Wisconsin Alumni Research Foundation (以下WARF)は、プロセッサの並列処理に関する特許(US5,781,752、以下752特許)を所有し、Appleに対し2件の侵害訴訟をウィスコンシン州西部地区地裁に提起した。最初の訴訟は、AppleのA7/A8プロセッサに対するもので、文言侵害と均等論侵害を主張した。しかし、後に均等論侵害は取下げられ、文言侵害のみが争点となった(WARF1事件)。その後、WARFは、AppleのA9/A10プロセッサに対し、特許侵害訴訟を提起し、均等論侵害を主張した(WARF2事件)。
WARF1事件では、陪審が752特許の文言侵害(literal infringement)を認定した。しかし、CAFCは陪審のクレーム解釈に誤りがあるとして地裁の判決を破棄・差戻した。差戻審でWARFは、新たに均等論による侵害を主張したが、地裁は、均等論侵害の主張は既に放棄されているとしてWARFの均等論侵害の主張を退けた。WARFはこの判決を不服としてCAFCに控訴した。
WARF2事件では、WARF1事件の控訴審が完了するまで審理が停止されていた。審理再開後、WARFはAppleのA9/A10プロセッサによる特許侵害を、均等論を根拠に主張した。地裁は、同一の被告に対して同じ争点を繰り返して主張することを禁じる判例(Kessler原則)を根拠にして、WARFの主張(均等論侵害)を退けた。WARFはこの判決を不服としてCAFCに控訴した。
CAFCは、両事件での地裁の判決を支持して、WARFの控訴を退け、その理由を次のように述べた。WARFは、WARF1事件で均等論侵害の主張を放棄しており、WARF2事件で均等論侵害の主張を再び行うのはKessler原則により認められない。A7/A8プロセッサとA9/A10プロセッサは製品としては異なるが、争点である均等論侵害の主張は本質的に同一である。文言侵害と均等論侵害は侵害問題の争点としては基本的に同一である。