IPRの関連規則に取下げクレーム(withheld claims)と特許上区別されない発明を特許権者が再出願することを禁じる規則がある(37 C.F.R. § 42.73(d)(3)(i))。CAFCは、第42.73条(d)(3) (i)の再出願禁止規則は、新規のクレーム、補正されたクレームに適用されるものであり、既登録クレーム(already issued claims)(特許付与時点の登録クレーム)に対しては適用されないと判断した。
第42.73条(d)(3) (i)の再出願禁止規則を既登録クレームに適用したPTABの審決は誤りであると差し戻した事件
SoftView LLCは、モバイルデバイスでのインターネット・コンテンツ表示に関する特許(US7,461,353、以下353特許)の特許権者である。アップルは2011年、353特許の再審査をPTOに請求した。翌2012年に京セラが同特許に対するIPRを申請した。そのためPTOは、アップルの再審査をIPRの結果が出るまで停止した。
PTABは2014年、353特許のIPR対象クレーム全てを自明であるとして無効の決定をした。IPRの無効決定が出たので、アップルの再審査が開始された。審査官はIPRで無効とされたクレーム以外のクレームを再審査し、それらを、自明性を理由に無効と決定した。
SoftView LLCは審判を請求し、無効とされたクレームを補正した。PTABは、全ての係属中のクレームについてPTOの再出願禁止規則を適用し、各クレームはIPR手続で無効とされたクレームと「特許上区別される」(patentably distinct)ものではないとして、PTO規則第42.73条(d)(3)(i)に基づきすべてのクレームが無効であると決定した。この審決を不服としてSoftView LLCはCAFCに控訴した。SoftView LLCは①第42.73条(d)(3)(i)の「特許上区別される」は「実質的に同一」を意味すると解釈される、②第42.73条(d)(3)は、先行技術に対しては自明性を理由に必ずしも特許不可とならないクレームを特許不可とするものであるため、SoftView LLCは、PTOがこの規則を制定する法的権限がなかった、③第42.73条(d)(3) (i)は、新規のクレーム、補正されたクレームに適用されるものであり、既登録クレーム(already issued claims)(特許付与時点の登録クレーム)に対しては適用されないと主張した。
CAFCは、①「特許上区別される」は「実質的に同一」を意味することはそのとおりであるが、結論は変わらないことは明らかである、②特許法(§316(a)(4))の下で、PTOには規則を制定する権限が付与されているとしてSoftView LLCの主張を退け、再出願禁止規則が有効であると確認した。しかし、③第42.73条(d)(3) (i)の適用範囲は新規クレームまたは補正クレームに限定され、既登録クレーム(特許付与時点の登録クレーム)には適用されないことを確認し、SoftView LLCの主張を支持し、PTABが既登録クレームに再出願禁止規則を適用したのは誤りであるとして、審決の一部を破棄し、事案を差戻した。