特許法285条により裁判所は、無謀な訴訟を起こし、負けた者に例外的(exceptional)に相手方の弁護士費用を負担させることができる。対抗手段のために起こしたIPRの費用を、敗訴した特許権者にもとめられるかどうかが、この事件では判断された。
特許法285条に基づく「弁護士費用の支払い」の請求は、自発的に行ったIPR手続の代理人費用が含まれていないことを明らかにした事例。
Dragon Intellectual Property LLC (以下Dragon)は5,930,444特許(以下444特許)を保有し、2013年にDISH Network L.L.C. (以下DISH)、Sirus XM Radio (以下SXM)他8社を個別にデラウエア州地裁に特許侵害で提訴した。被告のDISHおよびSXMは、被疑製品が特許クレームに包含されておらず、訴訟前の調査結果からもその事実は明らかだとする反論書をDragonの訴訟代理人に送付したが、Dragonは侵害訴訟を継続した。翌2014年にDISHは、444特許についてのIPRを請求し、SXMも請求人としてIPRに加わった。デラウエア州地裁は、IPRの結果が出るまでDISHおよびSXMに対する訴訟手続きを停止した。他の8被告については、クレーム解釈を進めた。
クレーム解釈の終了後にDragonの訴訟代理人は代理人を辞任した。クレーム解釈命令に基づき、Dragonと、DISH, SXMおよび他8被告の間で、被疑製品を非侵害とすることに合意が成立した。
地裁は、全被告に対して特許非侵害の判決を下した。判決後に、PTABはIPRの対象クレームが全て無効であるとの最終決定を行った。DISHおよびSXMは、2016年、特許法285条及び合衆国法典第28編第1927条にもとづき、訴訟およびIPR手続きに関わる弁護士費用の支払いを求めるモーションを申し立てた。モーション採否の決定前に、Dragonは地裁の非侵害判決とIPRの無効決定を不服としてCAFCに控訴した。
CAFCはIPRの特許無効決定についてはその判断を支持したが、地裁の非侵害判決については地裁に差戻した。Dragonは差戻審において、非侵害判決の取り消しと本件を無効として却下するように求めるモーションを地裁に申立てた。地裁は、非侵害判決を取り消したが、訴訟自体は却下せずに、DISHおよびSXMの弁護士費用の支払いを求める請求の審理を継続した。
DISHおよびSXMの弁護士費用の支払いの請求について、地裁は2018年、DISHおよびSXMのモーションを棄却した。地裁は、IPR手続を通じて特許を無効とすることは弁護士報酬の根拠とならないため、DISHもSXMも裁判の勝訴当事者ではないとした。DISHおよびSXMはCAFCに控訴した。CAFCは、控訴人らは、IPRによる無効化に成功したため、特許法285条に基づく勝訴当事者であるとして、事案を地裁に差戻した。差戻審で地裁は、この事件が特許法285条の「例外的」(exceptional)であると認め、控訴人らのDragonへの訴訟手続きに要した時間分についてのみ特許法285条に基づく弁護士費用の支払いを認めた。しかし、IPR手続にかかわる弁護士費用の請求と、辞任した前代理人についての請求については棄却した。DISHとSXMは、弁護士費用の請求の一部棄却を不服としてCAFCに控訴した。また、Dragonは、弁護士費用の一部支払いを不服としてCAFCに控訴した。
CAFCは、地裁の訴訟手続に要した弁護士費用の支払いを命じた判決についてはその認定を支持したが、IPR手続およびDragonの辞任した前代理人からの求償請求についてのDISHおよびSXMの主張を退けた。
CAFCはその理由を次のように説明した。
①被告製品のいずれによる侵害も認められないという明確な訴訟不成立の主張、Dragonが侵害訴訟を提起する前に被告製品による非侵害を証明する情報が公開されていたこと、Dragonが侵害訴訟を提起した後に控訴人らから非侵害の通知がDragonに送られたこと、侵害の主張が客観的に根拠のないものであることを知らされた後にDragon社が訴訟を継続したことなどを挙げて、このような訴訟手続におけるDragonの訴訟行為を例外的であると認めた。
②当事者がIPR手続を通じて無効を争うことを自発的に選択した場合、特許法285条に基づきそのための弁護士費用の支払いを認める根拠はない。控訴人らは、訴訟において無効を主張することもでき、他の8被告は、IPR手続を取らず、連邦地裁での訴訟を継続することを選択した。特許法285条では、自発的でない並行したIPR手続をした場合の弁護士費用の弁済を認めているが、自発的なIPR手続を選択した場合の弁護士費用の弁済は認めていない。
③合衆国法典第28編第1927条は、著しく不合理な訴訟手続を行った弁護士に対し、そのために合理的に発生した費用を支払うように裁判所から要求することはあるが、特許法285条では、そのような規定はなく、Dragonの代理人である弁護士が連帯して責任を負うものではない。
特許法285条では、例外的(exceptional)な場合には敗訴者に相手方の弁護士費用を負担させるが、自発的に起こしたIPR費用はその対象外であると認定し、適用範囲を明確にした。